山と谷に育つ牛、炭鉱跡の町から
佐々町は、北松浦半島の中南西部に位置する、山に囲まれた縦谷の町だ。佐々川が北東から南西に流れ、東には韮岳、西には江里山脈が連なる。この地形が、かつて北松炭田の中心地として栄えた歴史を刻んでいる。
昭和40年代までの炭鉱全盛期、人口は約2万に膨れ上がった。だが1969年4月、最後の炭鉱が閉山。急速な過疎化の中で、この町は農業を主産業に転換した。山間部の耕地整備、土地改良事業を経て、今、この谷間で育つのが長崎和牛だ。
長崎和牛の切り落としは、A4~A5の霜降りを持つ赤身肉。容量を500g、1kg、1.2kgから選べるのは、家族の人数や食べ方に合わせるためだ。届いた肉を冷蔵庫に入れ、数日かけて使う。すき焼きの鍋に入れれば、脂が溶けて甘くなる。炒め物に使えば、赤身の旨味が引き立つ。冷凍保存すれば、月単位で台所に常備できる。

炭鉱の町が、なぜ和牛か。それは、閉山後の土地活用と、山間部の気候が牛の飼育に適していたからだ。佐々町の年間平均気温は17度前後、湿度は約65%。涼しく、適度な湿度のこの環境で、牛は良質な肉をつくる。
食卓に着地する、赤身の使い方
リブロースのステーキは、約250g×2枚。焼き肉用の厚さで、家庭の火力でも中火でじっくり焼ける。表面に塩をふり、フライパンやグリルで3分ほど。肉の中心温度が55~60℃になったら、アルミホイルに包んで3分休ませる。この休ませる時間が、肉汁を逃さないコツだ。

シャトーブリアンのステーキは、最も柔らかい部位。150g×2枚は、夫婦で、あるいは特別な日の食卓用だ。焼き方は同じだが、この部位は火を入れすぎると硬くなる。中火で片面2分半程度、返してもう2分。塩、黒こしょう、バターで仕上げる。赤ワインを傍に置いて、ゆっくり食べる時間が生まれる。

炭鉱の町が、今、食卓に届けるのは、山間部で丁寧に育てられた牛の肉だ。それは、過疎化を乗り越えた産業転換の、目に見える形である。
