玄界灘が育てたアジの町
松浦市は北松浦半島の北端、玄界灘と伊万里湾に面した町だ。私がこの町を訪れるたびに感じるのは、海と人の距離の近さ。漁港が12もあり、毎日のように船が出入りする。その中心が松浦魚市場で、ここを通るアジの水揚げ量は全国一。年間およそ25,000トン。この数字は、単なる統計ではなく、この町の台所がどれほど海に依存しているかを物語っている。
アジは季節の魚だ。春から初夏にかけて脂が乗り、夏場は身が引き締まって香りが良い。松浦では「旬あじ」というブランド名で出荷されている。地元の人たちは、この季節のアジをどう食べるか。揚げるのはもちろん、塩漬けにして保存食にしたり、丼にしたり、干物にしたり。一尾のアジが、家の食卓に何度も姿を変えて現れる。
真アジフライ、家で揚げる
真アジフライフィレは、松浦が「アジフライの聖地」を宣言した2019年以降、この町を代表する返礼品になった。フィレ状に加工されたアジの身は、すでに骨が取られている。届いたら、冷凍のまま油に落とすだけ。5分で揚がる。

家で揚げるアジフライは、店で食べるものとは別物だ。揚げたての香りが台所に満ちる。衣の音。塩をふったとき、熱い衣に塩粒が吸い込まれていく様子。子どもたちが「できた?」と何度も聞く。そういう時間が、この返礼品にはある。タルタルソースをかけるのか、レモンだけか。家族の好みで決まる。

塩漬けと干物で、季節を保存する
潮風のたより干物セットは、アジ・サバ・カマスが詰まっている。干物は、夏の盛りに塩漬けにされたアジを、風で乾かしたもの。松浦の夏は、こうして食べ物を保存する季節でもある。

朝食の焼き魚として、あるいは酒の肴として。干物は調理が簡単だから、忙しい日の夜ご飯を救う。焼くときに出る香りは、塩辛さと海の香りが混ざったもの。ご飯が進む。
海鮮醤油漬けは、天然アジと天然ブリを醤油漬けにしたもの。丼にしても、茶漬けにしても食べられる。冷蔵庫に常備しておくと、白いご飯の上にのせるだけで一品になる。夏の暑い日、冷たいご飯に冷たい漬けをのせる。そういう食べ方が、この町では当たり前だ。
焼酎で、夏の晩酌を
焼酎セットには、地元の芋焼酎と清酒が入っている。アジフライを食べた後の晩酌に、焼酎のソーダ割りは欠かせない。松浦の夏は、海風が吹く夜に、こうして酒を飲む季節でもある。
返礼品を選ぶときの視点
この町の返礼品を選ぶなら、「何が届くか」より「どう食べるか」を想像してほしい。アジフライは揚げる手間がある。干物は焼く手間がある。漬けは冷蔵庫に常備する習慣がつく。そうした日々の営みが、松浦という町を支えている。高額な宿泊券や旅行クーポンもあるが、この町の本当の顔は、毎日の食卓にある。
