干拓地が教える、ものの強さ
松茂町は吉野川の河口に形成された三角州の上に立つ町だ。江戸時代以降、この低地を堤防で囲み、新田開発を進めた。その堤防に松を多く植えたことが町名の由来だという。つまり、この町の成り立ちそのものが『弱い土地を人の手で強くする』という営みの記録なのだ。
吉野川の流れが運ぶ土砂、潮の満ち引き、やがて来るという南海トラフの津波——松茂の人たちは、自然の力に向き合い、それでも耕し、育ててきた。サツマイモ、レンコン、梨、ダイコン。農業地帯として知られるこの町の野菜たちも、そうした風土の中で育つ。
バリスティックナイロンのボストントートは、そうした松茂の気質を体現する返礼品だと私は考える。バリスティックナイロンは、もともと軍用の素材として開発された生地だ。耐久性を第一に、何度も何度も使い込まれることを前提に作られている。Wファスナーの仕様も、開け閉めの繰り返しに耐える設計だ。

旅に出るとき、この鞄を手にする。空港を擁する松茂から飛び立つ人も多いだろう。羽田へ、福岡へ、札幌へ。その道中、この鞄は荷物を守り、何度も開け閉めされ、投げられ、押しつぶされる。それでも壊れない。むしろ使い込むほどに、その素材の質感が増していく。
土地の記憶が、ものに宿る
堤防に松を植えた先人たちの手仕事は、今も松茂の産業に息づいている。長原漁港で水揚げされるちりめんや海苔も、この町の人たちが吉野川と紀伊水道の間で営んできた生業だ。農業も漁業も、自然と交渉しながら、毎年毎年、同じ作業を繰り返す。その繰り返しの中にこそ、技術が磨かれ、信頼が生まれる。
バリスティックナイロンのボストントートは、そうした『繰り返しに耐える』という価値観を、素材と縫製で体現している。派手さはない。ただ、確かな作りがある。松茂の風土が育てた、ものづくりの思想そのものだと言えるだろう。
