山と川が町を作る
三好市に入ると、まず目に入るのは斜面だ。急峻な山肌が幾重にも重なり、その間を吉野川が走る。四国のほぼ中央に位置するこの町は、県面積の六分の一を占めながら、可住地はわずか十三パーセント。人間が暮らせる場所は限られている。だからこそ、この町の風景は研ぎ澄まされている。
剣山、三嶺といった西日本を代表する山々。大歩危、祖谷のかずら橋といった観光資源。これらは単なる景勝地ではなく、この町の骨格そのものだ。冬には積雪や路面凍結が見られ、南部では年降水量が二千ミリを超える。そうした厳しい気候と地形の中で、人々は傾斜地農耕という独特な農法を継承してきた。二〇一八年、この地域は「にし阿波の傾斜地農耕システム」として世界農業遺産に認定された。
風景に泊まる
吉野川沿いの宿泊券は、この町の本質を体験する手段だ。大歩危、小歩危の温泉旅館で夜を過ごすことは、単なる観光ではない。急流を眺めながら湯に浸かり、朝日が山肌を照らすのを見守る。そこには、この町が何千年もかけて作り上げた風景がある。

吉野川の流域では、急流を利用した舟遊びが盛んだ。二〇一七年には高知県との合同で世界選手権が開催された。その同じ川を、今度は静かに眺める。宿から見える景色は、この町の人々が毎日向き合う現実そのものだ。

山間過疎地域と呼ばれるこの町は、人口二万三千五百余。高齢化率は三十二パーセントを超える。しかし、その中で人々は日本酒、味噌、醤油、祖谷蕎麦、祖谷豆腐といった、この土地でしか作られない品々を守り続けている。宿泊を通じて、そうした営みの一端に触れることができる。
四国の中央に位置しながら、香川県、愛媛県、高知県と接する交通の要衝。松山自動車道の整備により、愛媛県東予地方への移動も容易になった。しかし、この町の本質は、その交通利便性にはない。山と川に抱かれた、人間の営みの小ささと深さにある。
