山に囲まれた盆地の、水の話
安芸高田市は、中国山地に囲まれた小起伏の丘陵地帯だ。私がこの町を見るとき、まず思うのは水である。太田川と江の川の分水嶺がこの地に存在し、わずかな距離の差で雨水が瀬戸内海側と日本海側に分かたれていく。そうした地形の中で、人は何百年も前から、この土地の水を飲み、その水で米を育て、酒を仕込んできた。
戦国大名・毛利元就がこの地に本拠を置いた郡山城は、標高402メートルの小さな山の上にある。城下町として栄えた吉田は、そうした山々に守られた盆地の中心だ。今、その同じ水脈の上で、地ビール職人たちが新しい仕事を始めている。
TAKAMOTO のホワイトビールは、この町の水で仕込まれる。ベルギー発祥のホワイトビールという様式を選んだのは、おそらく意図的だろう。小麦とコリアンダーの香りが立つこのビールは、重くない。山里の晩酌に、夏の食卓に、自然に着地する。

職人の手が、毎回違う
小規模な醸造所では、仕込みのたびに条件が変わる。気温、湿度、仕込み水の状態、麦芽のロット。大きな工場のように完全に同じものを繰り返すことはできない。その代わり、職人は毎回、その時々の条件を読み、手を加える。ホワイトビールのような淡い色合いのビールは、そうした細かな調整が味わいに直結する。
届いた瓶を開けば、柑橘系の香りが立ち上る。グラスに注ぐと、白濁した液体が光を通す。一口目は、小麦の甘さとコリアンダーのほのかな香辛感が同時に来る。後味は、意外なほどすっきりしている。
これは、毛利元就の時代には存在しなかった飲み物だ。だが、この町の水と、現代の職人の手が出会った時、新しい「地の味」が生まれた。それが、この一本の意味だと私は考える。
安芸高田市への寄付は、そうした小さな醸造の営みを支える。町の産業人口の多くは農業と製造業に従事している。地ビール醸造も、その延長線上にある仕事だ。毎回、手を加え、試行錯誤する職人たちの営みが、この町の新しい顔になっていく。