山田錦を育てた土地の、もう一つの顔
多可町は酒米・山田錦の発祥地として知られている。1877年ごろ、中区東安田の豪農・山田勢三郎が自作田で見つけた大きな穂が、やがて兵庫県立農事試験場で改良され、今も日本酒の顔となる品種になった。その歴史を背負う町だからこそ、食卓の「選び方」に目利きがある。
中国山地の東南端に位置し、千ヶ峰や笠形山に囲まれたこの町は、山と水に恵まれた土地だ。加古川水系の清流が流れ、季節ごとに野菜も米も育つ。そうした風土の中で、町民たちは何を食べるか、どう食べるかを、代々の手仕事で学んできた。杉原紙の手漉きの技術も、江戸時代には300軒の家が営んでいた。そこまで細かい仕事ができる町だからこそ、肉の部位を選ぶ目も自然と研ぎ澄まされる。
神戸牛のすき焼き用切り落としは、そうした町の台所感覚を映す返礼品だ。容量を500g、1kg、1.5kg、2kgから選べるのは、家族の人数や季節の食べ方に合わせるため。冬の鍋の季節には1.5kg、夏の盛り合わせには500gというように、その時々の食卓を想像して届く。

炭火と鍋、季節の手当て
すき焼き肉の切り落としは、見た目よりも使い手の工夫が問われる部位だ。脂の入り方が一定でないから、火の通し方も変わる。強火で一気に焼く部分、弱火でじっくり温める部分。そうした細かい調整ができる人の台所に届く肉だからこそ、本当の味が出る。
多可町の冬は、山に囲まれた盆地の冷え込みが厳しい。そんな夜に、家族や友人を囲んで鍋を囲む。割り下の香りが立ち上り、肉が鍋の中で色が変わる瞬間。そこに山田錦を仕込んだ日本酒があれば、その晩餐は完成する。町が「日本酒で乾杯の町」を宣言したのは2006年。酒米の発祥地だからこそ、食卓全体を見つめる視点がある。
神戸牛の希少部位ステーキも、同じ町の返礼品として届く。こちらは2枚、200gという限定的な量だからこそ、特別な日の食卓に着地する。焼き方も盛り付けも、一枚一枚に手がかかる。そうした「選ぶ」「調理する」という手仕事の積み重ねが、この町の食べ方の本質だ。

