相生湾、牡蠣の棲む水域
相生市の南に広がる相生湾は、瀬戸内海の中でも深く入り組んだ地形をしている。この湾の坪根、鰯浜沖では、昔からカキの養殖が盛んだ。私がこの町を訪ねるたびに思うのは、造船の歴史と漁業の営みが、同じ湾の中で並行して続いてきたということだ。
戦後、播磨造船所が図南丸を引き揚げ、昼夜を問わぬ突貫工事で改修した時代。その同じ湾では、漁師たちが静かに牡蠣を育てていた。大型船の進水式の轟音と、潮の満ち引きの中で、二つの産業が共存していた。相生産の牡蠣は、全国各地の店頭に出荷されるようになったが、その背景には、この湾の水質と、漁師たちの手がある。
漁師直送、冷凍で届く現実
相生湾の冷凍牡蠣は、漁師が直接送る品だ。2キロという量は、一度の調理では使い切れない。だからこそ、冷凍という選択肢が生きる。

届いた箱を開けると、むき身の牡蠣が詰まっている。冬の夜、鍋の出汁が温まるのを待ちながら、凍ったままの牡蠣を鍋に落とす。数分で火が通り、身が縮む。その瞬間、海の塩辛さが台所に立ち上る。翌週は、牡蠣フライにする。衣をつけて揚げると、中身はふっくら。冷凍だからこそ、身がしっかり詰まったまま調理できる。

春先、残った牡蠣を使って、パスタソースにする。バターと白ワイン、牡蠣の出汁だけで、シンプルなクリームソースになる。季節が変わっても、相生湾の味が食卓に着地する。
漁師が直送するという言葉は、単なる販売方法ではない。それは、相生の湾で育った牡蠣を、育てた人の手から、食べる人の台所へ、直線で結ぶということだ。造船の町が、今も海と向き合い、その恵みを送り続けている。その営みが、冷凍という技術に乗って、全国に届く。相生という町の、もう一つの顔がそこにある。