工業都市の奥に、水と醸造がある
川崎市を思い浮かべるとき、多くの人は川崎駅周辺の繁華街か、臨海部の工場群を想像するだろう。確かに、この市は京浜工業地帯の中心であり、昭和初期から日本鋼管やコロムビア、味の素といった大企業が次々と工場を構えてきた。しかし、その工業化の背景には、もっと古い営みがある。
江戸時代、慶長16年に完成した二ヶ領用水は、多摩川の流れを引いて中野島から大師・大島に至る広大な水田を潤した。その水で育った米は「稲毛米」と呼ばれ、江戸の寿司飯として珍重された。つまり、川崎は水の恵みで食を支える土地だったのだ。その水脈は、やがて工業用水へと転じたが、同時に、酒や調味料といった発酵食品の製造にも流れ込んでいった。
私が推したいのは、魯山人に捧ぐ 純米料理酒 蔵の素である。この品は、大和川酒造店という小規模な蔵が手がけた純米酒を、料理酒として仕立てたものだ。正式な酒造りの工程を経た純米酒だからこそ、単なる調味液ではなく、食材の味を引き出す力を持つ。720ml×2本という分量は、家の台所で毎日使うことを想定している。煮物に、味噌汁に、炒め物に。この酒が一本あれば、日々の食卓の奥行きが変わる。

川崎という市は、東京と横浜に挟まれた細長い地形で、昼間人口が夜間人口を大きく下回る。多くの住民は朝、東京へ通勤し、夜に帰ってくる。そうした暮らしの中で、帰宅後の食卓をていねいに整えることは、自分たちの時間を取り戻す行為だ。この料理酒は、そうした営みを支える。
多摩川の水が、今も流れている
川崎の返礼品を見ると、酒と食が中心になっていることに気づく。井筒ワイン 酸化防止剤無添加 コンコード赤甘口・ナイヤガラ白甘口は、長野県産のぶどうを使った無添加ワインだ。甘口という選択肢は、日本の食卓、特に家族で食事をする場面を想定している。辛口ワインのような「大人の嗜好品」ではなく、食事全体を優しく包む飲み物として機能する。

天然 マグロ 赤身 1kgは、メバチマグロを目利きのプロが選別し、急速冷凍したものだ。200g×5柵という分割は、一度に全量を使わず、何度かに分けて食卓に上せることを前提にしている。新鮮さを保ちながら、家族の食べるペースに合わせられる配慮だ。

工業都市だからこそ、食の手仕事が光る
川崎市は、人口156万人を超える政令指定都市でありながら、面積は政令市20市の中で最も小さい。つまり、人口密度が極めて高い。そうした過密な都市環境の中で、返礼品として選ばれるのは、工業製品ではなく、食と酒である。これは偶然ではない。
工業化が進む中でも、人間の食卓は変わらない。むしろ、忙しい日常だからこそ、帰宅後の食事の質が問われる。川崎の返礼品は、そうした現実に向き合っている。料理酒、ワイン、マグロ——これらは、東京への通勤から帰ってきた人が、自分たちの食卓を整えるための道具だ。
多摩川の水は、今も川崎を流れている。かつてそれが稲毛米を育てたように、今はこうした食品の製造を支えている。工業地帯の隣で、静かに、食の営みが続いている。
