北山川が刻んだ、山の村の食卓
北山村は、奈良県と三重県に囲まれた和歌山県の飛び地だ。村域の97%が山林で、北山川沿いの狭い平坦地に五つの集落が点在する。江戸時代から昭和39年まで、この川は木材を新宮へ運ぶ筏師たちの舞台だった。いまは観光筏下りとして復活しているが、その歴史が示すように、この村の暮らしは常に川と山に規定されてきた。
可住地面積3.72平方キロメートル、人口408人。統計だけでは見えない、この村の食卓の転機がある。昭和50年代、村を救う産物として福田国三が種苗登録したのが、じゃばらだ。ゆずやカボスのような香酸柑橘で、北山村の山の斜面で育つ。当初は需要が伸びず赤字が続いていたが、2001年に楽天市場に出店し、花粉症への効用が話題になると、需要は急増した。年間売上は2000万円から2億2000万円へ。この小さな村の基幹産業に成長した。
台所に届く、北山の香り
じゃばら果汁 360ml×2本は、無添加の100%天然果汁だ。届いた時点で、瓶を傾けると濃い黄色の液体が見える。香りは、ゆずより爽やかで、カボスより深い。冬の朝、白湯に小さじ一杯落とすと、鼻を通る香りが季節を教えてくれる。

台所での使い方は、調味料としてが主になる。刺身の醤油に数滴、塩辛い漬物に混ぜると、酸味が角を取り、香りが立つ。煮込んだ大根や、焼いた魚の上からかけても、じゃばらの香りが全体を引き締める。保存は冷蔵で長く持つため、一本を開けたら、毎日の食卓に少しずつ使う。そうすると、この村の山の斜面で育った柑橘が、自分の食べ方の一部になっていく感覚がある。

山の恵みを、もう一つ
北山村の返礼品は、この地の産業と地形を映している。熊野牛の赤身ブロックは、隣接する熊野地域の牛肉だ。北山川を挟んで三重県熊野市と向かい合う竹原地区からは、奥瀞橋で両県が結ばれている。この地理的な近さが、返礼品の構成にも表れている。赤身ブロックは、ステーキとして焼くより、薄く切って鍋に入れるのが、この山の村の食べ方に合う。冬の夜、北山川の音を聞きながら、熱い鍋に肉を落とす。そういう食卓の一場面を想像させる品だ。

有田みかんも、和歌山県の産物として届く。北山村自体の特産ではないが、同じ県内の柑橘文化の延長線上にある。じゃばらの酸っぱさと、みかんの甘さ。この村の食卓には、柑橘が二つの表情で存在する。