紀の川が流れる町の冬の仕事
岩出市は和歌山県の北部、紀の川が南を流れる小さな市だ。大阪のベッドタウンとして急速に宅地化が進んだ町だが、その南側には今も農地が広がり、柑橘の栽培が続いている。冬が深まる2月、この町から届くのがはっさくだ。

はっさくは、みかんより遅く熟す柑橘。酸味がしっかり残る2月上旬の出荷は、この果実の本来の食べ方だと私は考えている。届いた箱を開けると、厚めの皮が目に入る。これを手で剥くとき、白い内皮の苦みが指に付く。その苦みこそが、はっさくの個性だ。房を口に入れると、酸味が先に来て、その後ろから甘みが追いかける。砂糖をかけたみかんとは違う、果実そのものの構造が味わえる。
紀の川沿いの農地は、この地域の産業の根っこだ。関西空港の開港で人口が急増した岩出市だが、市の南側には昭和30年代からの農業が今も息づいている。はっさくはそうした農家の冬の仕事の結晶で、家庭用として選べるサイズ展開は、実際に食べる人の台所を想像した配慮だと感じる。
食卓への着地
4kg、9kgの選択肢があるのは、家族の人数や食べるペースに合わせるためだろう。冬の朝食に、一房ずつ剥いて食べるのが私の推奨だ。酸味が目覚めを呼び、甘みが朝の時間を整える。あるいは、夜の晩酌の後、口直しに一房。皮を剥く手の動きが、その日の疲れを少しほぐす。

はっさくは日持ちもする。冷暗所に置けば、2月から3月中旬まで、ゆっくり食べ進められる。急いで消費する必要がない。むしろ、毎日少しずつ、この町の冬を家の食卓に迎え入れるような感覚で、食べるのが良い。
