山に囲まれた町の、秋の手仕事
多気町は三重県の中央部、海を持たない内陸の山里だ。町を囲む山々は標高200m前後。その斜面に、柿畑が段々と広がっている。
私がこの町を見るとき、まず思い浮かぶのは「転作の歴史」だ。戦後、桑畑から柿へ。水田からも柿へ。昭和の高度成長期、この町の農家たちは何度も作物を切り替えながら、柿という選択肢に辿り着いた。1960年代には共同選果・共同出荷の仕組みが整い、今では三重県内で最大の柿産地になった。その中心が「次郎柿」だ。
次郎柿 訳ありは、その歴史の上に成り立っている。秋、届いた箱を開けると、ずっしりとした重さ。種がなく、果肉が詰まった柿だ。家の台所では、硬いうちに皮を剥いて、そのまま食べるのが一番。冷蔵庫で冷やしておくと、シャリシャリとした歯ごたえが残る。あるいは、少し柔らかくなるまで待って、スプーンですくって食べる。この町の柿は日持ちがよく、4月上旬まで貯蔵できるという特性がある。つまり、秋に届いた柿が、冬を越えて春まで、家の食卓に顔を出し続ける。それが、この町の農業の現実だ。

松阪牛と、山里の食べ方
多気町は伊勢茶や松阪牛の産地でもある。特に松阪牛は、この地域を代表する畜産物だ。
松阪牛のサーロインステーキが届くと、家の食卓は一変する。300gか450gか、選べる量。焼き方は、塩と黒こしょうだけで十分だ。フライパンか鉄板で、強火で焼く。脂が音を立てる。赤身と脂のバランスが、この牛肉の特徴だ。山里の町で育った牛が、都市の食卓に着地する。その時間差が、ふるさと納税という仕組みの中にある。

野菜と、季節の詰め合わせ
旬の野菜と果物の詰め合わせは、この町の農業の多面性を示している。柿とミカンだけではなく、モモも栽培される。野菜も、季節ごとに変わる。15品前後が一箱に詰まって届く。何が入っているかは、季節次第。その不確定性が、実は農村の現実に最も近い。市場向けの規格外品ではなく、家庭で食べるための「旬のもの」が、そのまま箱に詰められている。
多気町の返礼品を選ぶ時は、この町の「転作と工夫の歴史」を思い出してほしい。海のない山里が、何度も作物を変えながら、今の産地になった。その過程で生まれた、次郎柿という品種。その過程で育った、松阪牛という畜産。季節ごとに変わる野菜たち。すべてが、この町の土と手仕事の上に成り立っている。
