山間の牧場から、台所へ
瀬戸市は陶磁器の町として知られているが、私がこの町を見つめるとき、もう一つの顔が浮かぶ。尾張丘陵に囲まれた山地と、そこを流れる瀬戸川。古くから粘土を掘り、焼き物を作ってきた土地だからこそ、その山麓には良質な牧草地が広がっている。
瀬戸山麓牛の赤身スライスは、そうした地形と産業の転換を象徴する返礼品だ。かつて窯業一色だった瀬戸が、農業ブランドの確立に力を入れ始めたのは2000年代。瀬戸豚やせトマトと並んで、この牛肉も、町が新しく育てようとしている食の顔である。

赤身スライスが家に届いたら、まず冷凍庫の奥に寝かせておく。250グラム×2パックという分量は、週末の夕食に、あるいは平日の夜に、無理なく使い切れる量だ。解凍は前夜から冷蔵室へ。朝のうちに移しておけば、夜には自然な柔らかさが戻っている。
焼き方は素朴に。フライパンを熱して、塩をふり、さっと両面を焼く。赤身の牛肉は火の通しすぎが敵だ。中火で1分半、返して1分。そこまで。肉汁が表面に滲み出たら、もう十分。ご飯の上に乗せて、醤油をかけて食べるもよし、野菜と一緒に炒めるもよし。台所の手が自然に動く、そういう素材である。
ステーキで、季節の夜を迎える
一方、ロースステーキは、もう少し儀式的な食卓を想定している。200グラム×2枚という厚みは、一人分の晩酌の相棒として、あるいは夫婦で向き合う夜として、ちょうどいい。

選べる発送月という仕組みも、この町の配慮を感じさせる。秋口に申し込んで、冬至の夜に届けてもらう。あるいは春先に、新緑の季節に合わせて。そうして季節と食べ物を結びつける、その手間が、返礼品を単なる「もらい物」から「家の時間」へと変える。

山麓の牛、町の未来
瀬戸市は1929年の市制施行以来、窯業で生きてきた。だが高度経済成長期には名古屋のベッドタウン化が進み、窯業は衰退した。その中で、この町は新しい産業を模索している。ファインセラミックス、観光資源としての陶芸、そして農業ブランド。
瀬戸山麓牛は、そうした転換の一つの答えだ。山間の地形を活かし、良質な牧草地で育てた牛。それを食卓に届けることで、瀬戸という町が、いま何を大切にしているのかが伝わる。赤身の肉質、ステーキの厚み、選べる発送月という細やかさ。すべてが、この町の丁寧さを物語っている。