山と川に挟まれた盆地の、牛飼いの手仕事
飛騨市は岐阜県の最北端、飛騨高地の北部に位置する。宮川と高原川という二つの水系が東西を分け、その間を山地が貫く地形だ。市域の大半は山林で、標高1000メートルを超える山々が連なる。冬は特別豪雪地帯に指定され、年平均降雪量は600センチを超える。こうした厳しい気候が、この土地の産業と食べ物を形作ってきた。
古川町、神岡町、河合村、宮川村が2004年に合併して飛騨市となった。かつてはこの地域全体が戦国大名江馬氏の領国だった。現在も白壁土蔵街が残る古川地区は、清酒「蓬莱」「白真弓」の蔵元が並ぶ酒どころとして知られ、神岡地区には「飛騨娘」などの蔵元がある。和ろうそくの生産も盛んで、朝ドラ「さくら」の放映後は注文が殺到したという。しかし私がこの町で最も注目するのは、こうした伝統産業ではなく、山間の牧場で育つ牛の肉だ。
寒冷地の牛肉は、なぜ赤身か
飛騨地方の和牛飼育は、この地の気候と地形に深く根ざしている。年平均気温が10℃前後、冬は氷点下10℃を下回る日が数日続く環境では、牛の体は自然と引き締まる。夏と冬の気温差が大きい大陸性気候は、肉質に影響を与える。飼い手たちはこの風土を知り、赤身にこだわった飼育を続けてきた。

飛米牛の生ハンバーグは、そうした牛飼いの哲学が最も素直に表れた返礼品だと考える。180グラムの生ハンバーグが1個から8個まで選べる仕様は、家族の人数や食べるペースに合わせて、無駄なく届けるという配慮だ。冷凍で届き、湯煎か焼くだけで食べられる。真冬の夜、凍った庭を見ながら、この山奥で育った牛の肉を温める。そういう食べ方が似合う品だ。

赤身肉は、脂肪が少ないぶん、調理の手が問われる。生ハンバーグは、その赤身の旨味を逃さないために、ミンチにして成形し、加熱時間を最小限に抑える工夫だ。飼い手の意図が、加工業者の手を通じて、食卓に届く。
他の返礼品が示す、この町の食べ方
飛騨市の返礼品を見ると、肉だけでなく、米、野菜、酒、そして季節の果実が揃っている。飛騨産コシヒカリは令和8年産の先行予約で、1キロから20キロまで選べる。この町の米作りは、豪雪地帯の水と、山からの清流に支えられている。

夏には朝採れアスパラガスが届く。6月下旬からの発送で、農家が朝採りしたものを冷凍で送る。M~2Lサイズを選べるのは、調理法に合わせた配慮だ。焼いて塩をふるだけで、山間地の野菜の甘さが引き立つ。
酒は、この町の歴史そのものだ。蓬莱の金賞受賞酒セットは、300ミリリットル瓶5本で、飲み比べができる。古川地区の蔵元が、この地の水と米で仕込んだ純米吟醸。冬の晩酌に、一杯ずつ味わう。
季節と申込みの現実
ふるさと納税の返礼品は、通常、ポータルサイト経由で申し込む。飛騨市の場合、楽天ふるさと納税などで検索すると、上記のような品々が並ぶ。寄付額は5000円から280000円まで幅広く、家計に合わせて選べる。
推奨したい申込みのタイミングは、秋から冬だ。冬の豪雪期に向けて、保存性の高い肉や米を確保し、春から初夏にかけて野菜や果実の先行予約を入れる。そうすることで、一年を通じて、この町の四季が食卓に届く。
返礼品の多くは冷凍で届き、家庭の冷凍庫に保管できる。生ハンバーグなら、平日の夜、仕事から帰ってから調理できる。米は、毎日の食事の基本だ。こうした品々は、ふるさと納税という制度を通じて、都市部の家庭に、飛騨の風土をそのまま運ぶ。
飛騨市は、観光地としても知られている。古川祭は4月19日、20日に開催され、国の重要無形民俗文化財、ユネスコ無形文化遺産に指定されている。しかし、返礼品を通じた関係は、観光とは異なる。毎日の食卓に、この町の産物が届き、その背後にある牧場、田んぼ、蔵元の営みを想う。そういう関係が、ふるさと納税の本質だと私は考える。
