工業都市の隣に、牧場がある
各務原市は、川崎重工業の航空機工場と自衛隊基地に象徴される工業都市だ。金属加工、自動車部品、テクノロジー企業が集積し、濃尾平野の北部で絶えず何かが製造されている。だが市の北部から東部へ目を向けると、標高200~300メートルの山々が連なる。各務原アルプスと呼ばれるこの山地は、古生代のチャート層からなる堅い地盤で、かつては原野だった。その山麓と周辺地域が、今、飛騨牛の産地として機能している。
工業と農畜産業が同じ市域に共存する風景は珍しい。だからこそ、飛騨牛A5等級の上カルビが各務原の返礼品として届くことに、この町の多面性が映る。

焼肉の夜、肉の質感が主役になる
飛騨牛のA5等級は、霜降りの細かさと脂の質が一定の基準を満たした牛肉だ。800グラムという量は、家族4人の焼肉の夜に、ちょうど良い分量である。
届いた肉を冷蔵庫から出し、常温に戻す。焼肉用に切られた上カルビは、骨に近い部位で、赤身と脂が交差する。火にかけると、脂が音を立てて溶け始める。焼き網の上で肉が反り返り、表面が薄く焦げ色に変わる。その時間は、ほんの数十秒。焼きすぎると脂が落ちすぎて、肉が硬くなる。
タレに漬けるのではなく、塩をひとつまみ。肉そのものの甘さと、脂の香りが口に広がる。A5等級の肉は、その質感だけで食卓の時間を変える。家族が同じ皿を囲み、焼き立ての肉を箸で取り合う。そういう夜が、この返礼品で実現する。
各務原の産業と食卓の距離
各務原市は、かつて耕作に不向きな台地でニンジンを栽培し、澱粉工場の悪臭に悩まされた時代を経て、今は工業出荷高で県内第1位の工業都市へと転換した。その過程で、市の北部の山麓地域は、別の産業——畜産——を育ててきた。
飛騨牛は、その山麓の牧場で育つ。工業都市の隣で、牛は草を食み、時間をかけて肉になる。その肉が、寄付という形で全国の食卓に届く。各務原市の返礼品として飛騨牛が選ばれるのは、市の地理と産業の両方を体現しているからだ。工業と農畜産が共存する町だからこそ、この肉が意味を持つ。
