山に囲まれた町が、なぜ飛騨牛か
恵那市は岐阜県南東部、美濃三河高原のほぼ中央に位置する。標高700メートル級の山々に囲まれ、市域のほとんどが山がちな地勢だ。2004年の合併で旧恵那市と5つの町村が一つになり、今の市域は広がった。その中には、かつて寒天製造で日本一の生産量を誇った山岡町、江戸時代の城下町の面影を残す岩村町、大正村として観光に力を入れる明智町も含まれている。
しかし、この町の返礼品の顔は、飛騨牛だ。恵那市そのものは飛騨地方ではなく、むしろ愛知県豊田市や長野県に接する南東の端にある。それでも、この町から飛騨牛が届くのは、広域の流通と信頼の結果だろう。山に囲まれた地形が、かえって良質な食材を集める中継地点になっているのかもしれない。
飛騨牛のサーロインステーキは、A5ランクの肉を250グラム×5枚で届く。晩秋から冬へ向かう季節、家族で囲む食卓に、この肉を焼く。脂の香りが立ち上り、焼き色がついた瞬間、箸を入れる。肉の厚みがあるから、中火でゆっくり火を通すのがコツだ。塩とわさびだけで、肉の味わいが引き立つ。一枚ずつ、五晩の晩酌の相棒になる。

高原の宿と、もう一つの選択肢
恵那市の北西部、飯地町は「飯地高原」と呼ばれる山上の地だ。赤河断層崖に隔絶された、ひっそりとした山里である。その高原に、薪ストーブ付きのキャビンがある。ハイシーズン4カ月前の優先予約券として届く返礼品だ。

冬の高原は、夜間の気温が下がる。薪ストーブの炎を眺めながら、外の冷気を感じる。そういう時間を家族で過ごすことの価値は、スペックでは測れない。キャンプやグランピングの経験がある人なら、この町の高原での一夜がどんな質感を持つか、想像できるだろう。

飛騨牛のローススライスも、この町の返礼品の選択肢だ。880グラムの量は、しゃぶしゃぶやすき焼きに向く。冬の鍋の季節、薄く切られた肉が、熱い出汁の中でほぐれていく。家族が多い、あるいは友人を招く機会がある家庭なら、この量と形状は実用的だ。
町の奥行きを、返礼品で感じる
恵那市は、旧市と旧南部の町村が一つになった町だ。中心市街地は大井町と長島町に集中しているが、市域全体を見ると、岩村の歴史的町並み、山岡の寒天、明智の大正村、串原のキノコや蜂の子、上矢作の林業と清流——それぞれの地域が、異なる産業と文化を持っている。
返礼品として届く飛騨牛は、そうした多様な地域を持つ町が、広域の信頼ネットワークの中で選んだ品だ。山に囲まれた地形が、かえって良いものを集める力になっている。その構造を理解した上で、この肉を食卓に迎えると、単なる高級食材ではなく、町の奥行きを感じる一品になる。