焼き物の町が、なぜ牛か
多治見は陶磁器の集散地だ。7世紀から続く美濃焼の産地であり、市内には窯元、美術館、工場が点在している。けれど返礼品を見ると、この町が選んだのは牛肉である。それは矛盾ではなく、むしろ現実的な選択だと思う。
多治見は名古屋市のベッドタウンでもある。中央本線で約30分、通勤圏内の立地から、1980年代以降、新興団地や分譲マンションが増えた。つまり、ここは職人の町であると同時に、都市近郊の生活者の町でもある。台所は、焼き物よりも、食卓に直結した品を求めている。
飛騨牛のA5ロースは、そうした現実に応えた返礼品だ。隣県・飛騨の牛を、多治見経由で家に届ける。選べる発送月、選べる部位(ロース・肩ロース)、選べる用途(すき焼き用・しゃぶしゃぶ用)と、容量も500gか1kgか選べる。これは『返礼品をもらう』のではなく、『自分たちの食べ方に合わせて、牛肉を取り寄せる』という感覚に近い。

選ぶ喜びが、食卓を変える
冬の夜、すき焼きの鍋を囲む家族を想像してみてほしい。A5等級の飛騨牛は、脂が細かく入り、火を通すと甘みが立つ。薄くスライスされたロースは、割り下に落とした瞬間、色が変わる。その時間は、ふるさと納税の『返礼』というより、自分たちで選んだ食材を迎える儀式に感じられるはずだ。

発送月を選べるというのは、季節の手当てを自分たちで決められるということだ。冬に備えて秋に申し込む、あるいは春先の疲れた体に、初夏に届くように指定する。そうした選択肢が、返礼品を『もらったもの』から『用意したもの』に変える。
飛騨牛の切り落としも、同じ考え方で選べる。こちらは容量と発送月の自由度が高く、日々の調理に組み込みやすい。牛丼、炒め物、煮込み——切り落としは、台所の手数を減らしながら、質を落とさない。多治見のような都市近郊の家庭では、こうした実用性が何より大切だ。

焼き物の町の、もう一つの顔
多治見は『日本一暑い町』としてPR活動を行っている。2007年8月には40.9℃を記録した。そうした厳しい気候の中で、この町の人たちは、季節の変わり目に食卓を整える。冬の鍋、春の軽い炒め物、夏の疲労回復——牛肉は、そうした季節の手当てに欠かせない。
返礼品として牛肉を選ぶことは、多治見が『焼き物だけの町』ではなく、現代の生活者の町であることを示している。窯元の職人がいる一方で、サラリーマンが通勤し、家族が食卓を囲む。その現実の中で、飛騨牛は、ごく自然な選択肢なのだ。
