山に囲まれた盆地が、肉の町になった理由
高山市は日本で最も面積が広い市だ。東西約81キロメートル、南北約55キロメートルに及ぶ広大な領域の中心に、高山盆地がある。北東には飛騨山脈(北アルプス)、西には両白山地がそびえ、険しい山々に四方を囲まれた盆地だ。
この地形が、高山の食卓を決めている。冬は厳しい。年平均降雪量は305センチメートル。盆地の奥部では気温が氷点下20度近くまで下がる。野菜や果物の栽培は季節が限られ、保存が難しい。だから、この町の人たちは古くから、冬を越すための食べ物として畜産に頼ってきた。
飛騨牛は、そうした風土の中で育った。山に囲まれた盆地で、良質な水と牧草に恵まれた環境。寒冷な気候は、牛の肉質を引き締め、脂肪の融点を高める。結果として、霜降りが細かく、口の中でとろける食感が生まれる。これは、この町の気候と地形がもたらした、必然の産物だ。
飛騨牛の切り落とし—家の食卓への着地
飛騨牛の切り落とし500グラムは、この町の食べ方を最も素直に映す返礼品だ。

A5等級の飛騨牛を、切り落とし—つまり、部位を選ばず、加工の過程で出た端材や小間切れにしたものだ。市場向けの「訳あり」という言い方は、実は家庭の台所にとって最も実用的な形を指している。

届いた箱を開けると、真空パックに詰められた牛肉がある。色は深い赤。脂肪が白く筋状に入っている。冷凍で届くので、使う分だけ解凍できる。一週間の食卓の中で、何度も登場させることができる。
朝、味噌汁に入れる。昼、丼にする。夜、すき焼きにする。切り落としだから、形を気にせず、そのまま鍋に入れられる。高い部位を少量ずつ使うより、この形で500グラムあれば、家族の食卓に飛騨牛が何度も上る。冬の夜、温かい鍋を囲む時間が増える。
飛騨の冬は長く、厳しい。だからこそ、温かい食事が、この町の人たちの生活の中心にある。飛騨牛の切り落としは、そうした季節の手当てを、最も現実的な形で実現する。
米と酒—盆地の冬を支える他の柱
高山の食卓は、飛騨牛だけでは成り立たない。米と酒も、この町の風土を映す返礼品だ。
飛騨産コシヒカリ5キログラムは、盆地の短い夏に育つ。寒暖の差が大きい気候が、米の甘みを引き出す。白米で届くので、精米の手間がない。毎日の食卓に、そのまま炊ける。

飛騨の辛口地酒の飲み比べセットは、300ミリリットルの小袋に詰められた二種類の酒だ。レトロな小袋という形は、昭和の飛騨の家庭で、晩酌を分け合う文化を思わせる。冬の夜、温かい食事の後、小さな盃に注ぐ。その量は、毎晩の習慣として無理のない範囲だ。
飛騨の冬は、こうした米と肉と酒で、家族が一緒に過ごす時間を作る。返礼品は、その時間を家に届ける形をしている。
選び方—この町の返礼品を読む視点
高山市の返礼品は、旅行クーポンや温泉宿泊券も多い。奥飛騨温泉郷は、この町の観光資源の中心だ。だが、ふるさと納税で返礼品を選ぶ時、私は『この町に寄付した時、家に何が届くか』を問う。
旅行は、その時だけの体験だ。だが、食べ物は、毎日の食卓に着地する。飛騨牛、飛騨米、飛騨の酒—これらは、寄付した後も、何度も家の台所に現れる。その度に、高山盆地の冬、山に囲まれた町の風土を思い出す。
返礼品を選ぶ時、寄付額の大きさや、ランキングの順位ではなく、『この町でなぜそれが作られるのか』を考えてみてほしい。高山の場合、それは地形と気候が、はっきりと答えを示している。北アルプスと両白山地に囲まれた盆地。厳しい冬。その中で、人々が何を食べ、どう暮らしてきたか。返礼品は、その歴史を、家の食卓に届ける形をしている。
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