桂川流域の水が、ぶどうを育てる
西桂町は富士吉田と都留の間、三つ峠と杓子山に挟まれた標高600mの盆地だ。私がこの町を見ると、まず思うのは水の町だということだ。先史時代から湧水が湧き、バイカモが自生する清流・桂川が流域に集落を展開させてきた。江戸時代には富士講の宿駅として栄え、郡内織の産地でもあった。つまり、この町は古くから『水と手仕事の場所』だったのだ。
その歴史の上に、いま笹一酒造がワインを醸している。マスカット・ベリーA樽熟成は、この町の水と土が育てたぶどうを、樽で寝かせた赤ワインだ。マスカット・ベリーAは日本固有の品種。ぶどう栽培に適した標高と、清冽な水——それが西桂の風土そのものである。

樽熟成という工程は、時間を買うことだ。3本セットで届く瓶は、それぞれ異なる熟成段階を経ている。開けるたびに、同じぶどうがどう変わるかを手で感じることになる。晩酌の卓に、季節ごと、月ごとに置く。そうすると、この町の四季——三つ峠の雪解けから秋の紅葉まで——がグラスの中に映るようになる。
小さな町の、続く仕事
西桂町の人口は減少傾向にある。2007年には4,874人だったが、2026年には3,800人まで落ちた。しかし笹一酒造は、この町でぶどうを育て、ワインを仕込み続けている。それは『観光地化』ではなく、江戸時代から続く『手仕事の場所』としての自覚だと私は読む。
寄付してこのワインが家に届く時、あなたは西桂町の水と土、そしてそこで働く人の手を受け取ることになる。樽の香りを嗅ぎ、色を見つめ、飲む。その一連の行為が、この町を支える。小さな町だからこそ、一本のワインの重さが違う。
