ユズが育つ土地の、季節の仕事
毛呂山町でユズが栽培されるようになったのは昭和初期のこと。いまでは日本で最も古い産地として知られている。特に桂木地区で育つユズは「桂木ユズ」の銘柄で全国に流通している。
私がこの町を見ると、西部の外秩父山地から東部の低地まで、地形そのものが農業の多様性を支えている。山地の傾斜地にはユズやリンゴの樹が根を張り、平地には水田が広がる。秩父古生層という古い地層が露出する西部の土壌は、ユズのような柑橘類に適している。その土地で、何十年も同じ樹を育ててきた農家がいる。
果実のささやきは、そうした産地の季節を瓶詰めにしたものだ。ユズ、桃、パッションフルーツ、マンゴー——複数の果実をリキュールに仕立てている。一本一本、異なる果実の香りと甘さが詰まっている。

晩酌の卓に、季節を注ぐ
届いた瓶を開けるのは、夜の食卓だろう。グラスに注ぐと、果実の香りが立ち上る。ロックで飲めば、冷えた液体の中に果実の甘さと酸味が層をなす。ソーダで割れば、炭酸が香りを立たせ、カクテルの素として使えば、季節ごとの飲み方が広がる。
ユズのリキュールなら、冬の晩酌に。桃なら初夏に。同じ産地から届く複数の果実を、季節を追って開けていく。そうすることで、毛呂山町の農家が一年かけて育てた果実の時間が、家の食卓に着地する。
農業従事者の高齢化や耕作地の減少が進む中で、こうした加工品は、産地の仕事を次の世代へ繋ぐ一つの形でもある。瓶の中の果実は、その土地で育った樹の記憶を運んでいる。
