山の傾斜地で、蜜と梅が育つ理由
長野原町は南北に1000メートルの高低差を持つ町だ。北は吾妻川流域の山岳傾斜地帯、南は浅間高原。火山灰土と砂礫土が大半で、平坦な耕作地は少ない。だからこそ、この町の農業は傾斜地を活かす作物を選んできた。
梅とはちみつの梅酒は、そうした風土の産物だ。ミツバチが育つには、急斜面の雑多な花が必要だ。梅も、水はけの良い傾斜地を好む。浅間山と草津白根山に挟まれた、この町の地形そのものが、蜜と梅を呼び寄せた。

梅酒は冬の晩酌に、あるいは夏に炭酸水で割って。300ミリリットルの瓶3本は、季節を通じて家の食卓に着地する。蜜の甘さが梅の酸を包み込む味わいは、この町の職人が何年もかけて調整した配合だ。
明治から続く町の自治と、小さな手仕事
長野原町は1889年の町村制施行から、一度も合併を経験していない。日本全国でも、当初から町制を敷いたまま現在まで続く町は、この町と千葉県酒々井町の2つだけだ。135年近く、同じ行政区域で、同じ人たちが土地を守ってきた。
そうした小さな町だからこそ、ミツバチの飼い手も、梅を育てる農家も、酒を仕込む職人も、顔が見える距離にいる。返礼品として届く梅酒の瓶には、その距離感が詰まっている。
吾妻線の駅から、川原湯温泉へ向かう道すがら、この町の傾斜地を見れば、蜜蜂の巣箱と梅の樹が、どう配置されているかが分かる。それは観光地ではなく、生業の風景だ。