関東平野の北、米どころの手仕事
佐野市は栃木県南西部、関東平野の北部に位置する。足尾山系の山々が市の中部に広がり、渡良瀬川や秋山川といった河川が流れ込む。この地形が生んだのは、古くからの米作り文化だ。温暖湿潤気候で、年間日照時間が2000時間を超える土地。夏は厳しく、冬も適度な冷え込みがある。そうした季節の手当てのなかで、米を焼く技術が育まれてきた。
天明焼のせんべい詰め合わせは、その歴史を家の食卓に届ける。6種類、計57枚。箱を開けた時、何種類もの焼き色が目に入る。薄く焼いたもの、厚みのあるもの、塩辛いもの、甘いもの。一枚一枚、米の香りと焼きの音が違う。

台所で、季節の手当てとして
せんべいは、米を保存する知恵だった。秋の収穫を、冬の間、春まで食べるために。塩漬けにしたり、干したり、焼いたり。その中で焼く技術は、単なる保存ではなく、米そのものの味を引き出す手仕事になった。
届いたせんべいを、朝の味噌汁の傍に置く。昼間、手が伸びる。夜、お茶請けになる。一枚食べると、次の一枚が欲しくなる。それは、塩加減や焼き加減が、毎回同じではなく、微妙に違うからだ。工場で均一に作られたものではなく、人の手が入った痕跡が、かすかに残っている。
詰め合わせの中に、自分の好みの一種類が必ず見つかる。甘党なら甘めのもの、塩辛いのが好きなら塩辛いもの。そして、季節が変わると、また別の種類が好きになる。春先は塩辛いものが欲しくなり、秋口は甘めのものが恋しくなる。そうした季節の移ろいを、せんべいの味で感じることができる。
足尾山系の麓で、米を焼く音。それは、佐野の台所の奥底にある、古い記憶の音だ。