山の水が、酒になる町
古殿町は福島県の中通り南東部、阿武隈山系の標高300~500メートルの山あいにある。鮫川が鎌倉岳の北を巻いて東西に横断し、その清冽な水が町を流れている。人口4600余りの小さな町だが、ここに東豊国という蔵がある。
私がこの町を見ると、まず地形が目に入る。三株山を最高峰に、犬仏山、大黒山、矢野山、入道山が雁行して走る。こうした山々に囲まれた谷間の町だからこそ、水が良い。酒造りに必要な軟水が、年間を通じて安定して得られる。古殿の酒は、この地形と水脈の産物だ。
東豊国の純米酒飲み比べセットは、その蔵が仕込んだ複数の純米酒を一度に味わえる返礼品である。届いた箱を開けば、異なる精米歩合や仕込み方で醸された酒が並ぶ。冷やして飲めば、米の甘さと酸のバランスが季節の食卓に着地する。常温で飲めば、香りが立ち上る。燗をつければ、また別の表情が見える。

小さな蔵だからこそ、一本一本の仕込みに手がかかる。米を選び、水を量り、麹を育て、仕込みの時期を見極める。その手仕事の積み重ねが、飲み比べセットの中に詰まっている。
晩酌の相棒として
古殿町の台所を想像してみると、この酒がどう着地するかが見える。夜、仕事から帰った手が、冷蔵庫から一本を取り出す。グラスに注ぐ。米の香りが鼻をかすめ、一口目の甘さが舌に広がる。その瞬間、山あいの小さな町の水と米と、蔵人の手仕事が、家の食卓に届いたことを感じる。

飲み比べセットだから、気分や季節で選べる。春先の淡い酒、夏の冷やした一本、秋口の燗酒。そうして何度も手に取るうちに、東豊国という蔵の仕事が、自分の晩酌の一部になっていく。それが、ふるさと納税の返礼品が持つ最も良い形だと私は考える。