冷たい風が、松茸を育てる
岩泉町は北上山地の東部に位置する。春から夏にかけて太平洋から吹き込む「やませ」と呼ばれる冷たい風が、この地を特徴づけている。もともと稲作には適さない土地だったからこそ、江戸時代から牛を育てる文化が根付き、やがて酪農の町へと変わっていった。その同じ冷涼な気候と、北上山地の深い山々が、もう一つの特産品を生み出している。松茸だ。
岩泉町は全国有数の松茸産地である。秋が深まると、町内の山々から東京や関西方面へ出荷される。岩泉の松茸は、その冷たい風と、山の土壌が織りなした香りを持っている。

届いた時から、季節が始まる
松茸が家に届く。箱を開けた瞬間、土の香りと、独特の香気が立ち上る。それは市場で見かける松茸とは別の、山そのものの匂いだ。
調理は単純だ。土を軽く払い、根元を切り落とし、薄くスライスするか、そのまま焼くか、土瓶蒸しにするか。どの方法でも、その香りは逃げない。秋の晩酌の時間に、炭火で焼いた松茸を箸でつまむ。塩をひとつまみ。それだけで、北上山地の秋が食卓に着地する。
松茸は日持ちしない。届いたら数日のうちに食べきることが前提だ。だからこそ、その季節の限られた時間を、家族や友人と共有する食べ物になる。冷蔵庫に入れて保存することもできるが、香りが命の食材だから、できるだけ早く、新しいうちに火を通すのが正解だ。
岩泉町の松茸は、秋の味覚の中でも最も季節を感じさせる返礼品である。それは単なる食材ではなく、北上山地の冷たい風と、深い山々の時間が、一つの香りに凝縮されたものだ。
