親潮と汽水湖が重なる場所
厚岸町は、北海道の南東、釧路の東に位置する小さな漁港の町だ。私がこの町を見るとき、まず思うのは「水が重なっている」ということ。太平洋から南下する親潮と、町の奥に深く入り込む厚岸湖という汽水湖。その二つの水が交わる場所で、この町の漁業は成り立っている。
厚岸湖と別寒辺牛湿原はラムサール条約の登録湿地だ。つまり、国際的に認められた豊かな水辺の生態系がここにある。親潮が運ぶ栄養分と、湖からの淡水が混ざり合う環境は、貝類にとって最良の育成地になる。この町の産業統計を見ると、漁業がいまも地域経済の中核を占めており、特にカキ、アサリ、サンマ、コンブといった海産物が主要な水揚げ品だ。
厚岸の牡蠣、シングルシード方式の手間
厚岸産の殻付き牡蠣を手にしたとき、まず驚くのは、その育成の歴史の新しさだ。1999年にこの町にカキ種苗センターが完成し、翌年からシングルシード方式による種苗の出荷が始まった。つまり、いま食べている厚岸の牡蠣は、この町が独自に開発した養殖体制で育ったものなのだ。

シングルシード方式とは、一粒一粒の稚貝を丁寧に育てる方法だ。宮城系の稚貝を導入しながらも、厚岸の水と気候の中で、この町独自の種苗生産体制を構築した。その手間と工夫が、殻の中に詰まっている。

届いた牡蠣を開くとき、私は台所で海の香りに包まれる。生食用として出荷されているから、そのまま食べることもできるし、軽く火を通してもいい。冬の晩酌に、一粒ずつ味わう。親潮が育てた海水の塩辛さと、湖からの淡水がもたらす甘さが、一つの貝の中に同居している。それが厚岸の牡蠣の本質だ。
同じ海で育つ、アサリとししゃも
同じ厚岸湾で採れる活あさりも、この町の食卓に欠かせない。砂出し済みで届くから、すぐに味噌汁に入れられる。春先、新玉ねぎと一緒に炒めるのもいい。アサリは厚岸漁港の水揚げ高でも上位を占める品で、この町の漁業の多様性を象徴している。

本ししゃもも、同じ海の産物だ。オスとメスが分けられて届く。オスは身が詰まり、メスは卵を持つ。どちらを選ぶかで、食べ方が変わる。塩焼きにして、ご飯の上に乗せる。秋から冬にかけて、この町の食卓に登場する定番だ。
厚岸の漁業は、一つの魚種に頼るのではなく、親潮が運ぶ多様な海産物を季節ごとに活かしてきた。牡蠣、アサリ、ししゃも、サンマ、コンブ。それぞれが異なる季節に、異なる調理法で、この町の台所に着地する。寄付して届く返礼品は、単なる食材ではなく、その町の漁業の営みそのものなのだ。